AI導入は「導入したら終わり」ではありません。むしろ、そこからが本当の勝負です。

私が医療機関の現場でシステム・医事を担当した12年間、電子カルテも勤怠システムも、何度も「導入したのに、一部の機能が使われないまま終わってしまう」という光景を見てきました。導入直後は研修もあってみんな一応触ります。でも数か月後、気づくと機能の一部は使われておらず、結局、紙とExcelと「あの人に聞く」に戻っている——。

さらに言えば、その機能にないので、私が部門アプリを開発していたこともあります。

いま自分がAI導入を支援する側になってわかったのは、これは現場のせいではなく、導入の設計の問題だったということです。

データが語る「78%の逆戻り」

自治体職員を対象にした調査(rakumo、2026年・115名)で、DXツール導入後に約78%がアナログな業務手順に逆戻りしているという結果が出ていました。

逆戻りの理由の1位は——

「現場職員がツールを使わず、業務が完結しなかった」(77.8%)

これは私が病院で見てきた光景と完全に一致しています。

技術の問題ではなく、定着の問題。これが「PoC止まり」です。

PoC止まりを抜けるためにやっていること

いま支援している案件では、以下を意識的に実装しています。

① 最初の業務を1つに絞る

全社一斉ではなく、「現場が毎回同じ確認をしていて、面倒だと感じている業務」を1つだけ選びます。効果が見えやすく、関わる人が少ないところから始めることが成功の鍵です。

② 「正解を持っている人」と一緒に作る

その業務に一番詳しい担当者に入ってもらい、何を自動化するかを一緒に決めました。現場の"暗黙のルール"は外部の人間だけでは絶対に拾えません。

③ 週1回のセッションで「使って→直す」を回す

完成品を納品して終わり、ではありません。実際に使ってみて出た不満を、その場で設計に反映する。完成品を渡すのではなく、現場に根付くまで一緒に伴走するが原則です。

定着を阻む「3つの壁」

「入れたのに使われない」は、だいたい次の3つに当たります。

① 導線の壁

別画面を開く、別ログインが必要——その一手間で人は使わなくなります。普段の業務の流れの中に無理なく組み込めないと続きません。

② 学習コストの壁

マニュアルを読まないと使えないツールは、忙しい現場では後回しにされます。「触れば分かる」レベルでないと最初の一人が脱落します。

③ 業務フロー不一致の壁

「便利な機能」と「実際の業務」がズレていると、使うほど手間が増えます。

ポイント
どれも技術ではなく設計の問題です。だからツールを選ぶ前に「どう定着させるか」を設計する必要があります。

スモールスタート手順(再現可能な形で)

  1. 1業務・1部署に絞る(繰り返し発生する面倒な業務から)
  2. その業務の"正解"を持つ人を巻き込む
  3. マニュアルなしで使える導線にする
  4. 「使って→直す」を毎週回す(完成品を渡さず、一緒に育てる)
  5. 「使われている状態」ができてから横に広げる

最初から大きく作らない。小さく作って、定着させてから広げる。これがPoC止まりを抜ける唯一の道です。

定着設計の核心
「導入して終わり」ではなく「現場に根付くまで一緒にいる」。週1回のセッションで設計を育て続けることで、PoC止まりを抜けた案件が生まれます。
沼尻 義弘 — 株式会社giverth 代表取締役
沼尻 義弘
株式会社giverth 代表取締役 / ITコンサルタント・PM

病院でシステム・医事を12年担当したITコンサルタント。医療機関・中小企業向けの完全オフラインAI導入支援(Dify + Ollama)に特化。週1伴走型の定着支援を提供している。

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